大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(う)2373号 判決

被告人 渡村修

〔抄 録〕

職権を以って調査してみるのに、原審は簡易公判手続により本件を審理し、起訴状記載とおりの訴因事実について有罪の認定をしているのである。そして、原判決の判示事実によれば、被告人は原判示交差点を右折後、藤枝市志太方面に向い時速約二〇キロメートルで進行しようとしたが、右方道路の安全を確認することなく右折を開始したため、右折開始直後、右方道路から接近した車両との接触の危険を生じさせ、同車を避けようとし、ハンドルを左に切った際、道路左側駐車場の鉄柵に接触の危険を生じさせ、これを避けようとしたのであるが、この場合自動車運転者としては、前方左右を注視し、進路の安全を確認し、ハンドル操作を適切に行なうべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、運転開始前に飲んだ酒の酔いの影響もあって、前方注視を欠いたまま漫然ハンドルを右に切り、適切なハンドル操作を欠いた過失により本件の事故を招いたとの事実を認定し、本件における被告人の責められるべき過失は、被告人が前記の如く道路左側駐車場の鉄柵に自車を接触の危険を生じさせ、これを避けようとしてハンドルを右に切るに際し、前方左右を注視し、進路の安全を確認しなかった点にあるものとしている。然し、前記の如く自車を前記鉄柵に接触させる危険を生じさせた段階において、右接触の危険を避けようとしている被告人に果して、前方左右を注視し、進路の安全を確認して、ハンドル操作を適切に行うべき注意義務を遵守することが可能であったかどうか、原判決はこれをその引用の証拠と対照して読んでみても、とうていこれを明らかにすることを得ないばかりでなく、右接触の危険が生じた時点においては、被告人としてはこの危険を回避することに注意を奪われ、原判決の注意義務を遵守し、ハンドル操作を適切に行うが如きことはむしろ不可能であったと認めるべきである。本件において、被告人の過失は、かかる鉄柵に接触する危険を招く以前の段階、すなわち、被告人は右折開始直後、右方道路から接近した車両と接触の危険を生じさせているのであり、これとの回避策としてハンドルを左に切ったことも已むを得ない措置であったと認められるのであるから、むしろ、原判示交差点を右折するに際し、必要な注意義務を欠いた点にこそ求められるべきものというべきである。果して然らば、原判決がこの点に意を用いず、漫然簡易公判手続により原判示事実を認定したことは、事実誤認もしくは審理不尽の瑕疵があるものというべく、この点の瑕疵は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は控訴趣意に対する判断をまつまでもなく既にこの点において失当として破棄を免れない。

(吉沢 谷口正 中村)

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